“ピー”は買い

タイ語の発音にはトーンがある。“ピー”と強くいうと自分より年長者に呼びかける時に使う敬称だが、これを一旦落ちてから這い上がってくるライジングトーンで発音すると“幽霊”になるのだが、今回はその幽霊について書く。

筆者がロンドンでオフィスビル開発をしていた頃の話だ。ウエストエンドのメイフェアといえば、今はCBDだが、戦前は最高級住宅地であった。築100年以上の歴史的建物が多く、その中には昔住んでいた人の亡霊が住みついているという噂の建物もいくつかあった。

例えば、夜中になると誰も住んでないはずの屋根裏部屋から靴音が聞こえたり、ドアが開くギーッというような音がするという話だ。

これに対するイギリス人の反応が面白い。興味津々で、是非その部屋に泊まってみたいといい出す。幽霊を怖がるどころか親近感を持っているのだ。西洋の幽霊は人を殺したりせず、ただそこに住み着いているだけなので、同居人のように思っている節がある。

従って、欧米ではドラキュラのようなモンスターや墓場から蘇ったゾンビのようなホラー映画は多いが、お化け映画は意外に少ない。ほとんどの人が怖がらないからだ。

しかし、これがアジアだと話が一変する。日本人もそうだが、特にタイ人は幽霊を怖がる。手に触れることができないとか、はっきり見えないというような不可解なものに強い恐怖心を持つのだ。だから、お化け映画はいつも人気がある。とはいえ、タイ人にはいささか度を越したところがあって、これが不動産にも影響を及ぼす。

さて、ここでやっと本題である不動産の話になるのだが、タイ人は自分の住居を決める際、窓から病院の病室が見えると大抵嫌がる。病室で多くの人が息を引き取るのでその幽霊が恐ろしいという。

次に怖がるのはお寺だ。窓からお寺が見えるのは不吉だという。お寺では人は死なないじゃないかというと、お寺には火葬場があって死んだ人を燃やすからその幽霊がいるという。

例えば、バンナー駅の横には大きなお寺があり、ここには火葬場がある。その横に建てられたコーストというコンドミニアムがあるが、実はこの物件のお寺向きのユニットは最後まで販売に苦戦していた。

それも無理はない。毎日死んだ人を燃やした煙が窓から入ってくるのでは、我々日本人でも落ち着かないはずだ。

また、日本人におなじみのエッカマイ駅前にも大きな寺院がある。ここには火葬場があり、しかもその隣にはスクムビット病院もある。つまり、タイ人にとってお寺と病院の両方がある極めて忌まわしい場所なのである。

そこで、この近くのコンドミニアムの売れ行きを調べてみる。まず、病院横のロフト・エッカマイ。あの185ラーチャダムリやザ・リバーを開発したレイモンランドのラグジュアリーコンドだ。

2012年に売り出すと早々とFQ(外国人枠)が完売となり、今も外国人枠の広いユニットはなかなか売りが出てこない。しかし、タイ人枠の売れ行きは悪い。すぐ窓から外に病院の病室が見えるからかもしれない。

そして、ゲートウエイ裏のリズム42。ここからはお寺と病院の両方が見える二重苦だ。ここも竣工済ながら、いまのところ、売行きはあまりよくない。

そこで、筆者のクライアントであるパリから来たフランス人のJ氏。ことのほかインテリアや間取りのセンスにうるさい人だが、その彼がいたく気に入ったのがロフト・エッカマイだ。どうしても70㎡以上ある広めの2ベッドルームが欲しいと外国人枠のリセールが出てくるのを3か月近く待ったが出てこなかった。

結局諦め、仕方なく2番候補であったリズム42のお寺向き角部屋の投げ売りを叩いて買った。しかし、結果的に決して悪い買い物ではなかったと筆者は思う。幽霊など怖くもない白人にとって、タイ人が尻込みする“ピー”は買いなのである。

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