“非常事態宣言”再延長、タイ王国は依然闇の中!

先日、バンコク在住の筆者はバンコクロングステイクラブが毎週水曜日に開いている飲み会に、半年ぶり、いや、正確には7か月ぶりに顔を出してきた。3月の非常事態宣言以降、この会もコロナ感染リスクを避けて長らく中止になっていたのだが、国内の新規感染者が3か月間ゼロとなり、やっとコロナ危機が去ったということで、今月初めから再開となり、筆者も23日の飲み会に久しぶりに顔を出してきたのである。

それが、以前は20人ほど集まっていたのが、この日は筆者を入れて7人しか来ておらず、以前に比べて随分寂しい飲み会になっていた。話を聞くと、多くの会員が海外でのコロナ感染を恐れて一時的に日本に戻っていたのだが、その間にタイ政府の厳格なロックダウンや夜間外出禁止令が奏功し、国内でのコロナ感染者はゼロとなり、日本よりタイの方がはるかに安全になったにもかかわらず、今も続くタイ政府の外国人入国規制により、バンコクに戻りたくても戻れなくなってしまっているとのことであった。

バンコクでコンドミニアムを購入したりして、タイでセカンドライフを過ごすつもりで来ていた人たちにしてみれば、日本で思わぬコロナ難民になってしまったわけで、きっとタイに戻れるのはまだか、まだかと今も待ち焦がれているのだろうと思う。

そんな中、9月25日の夕方、政府が9月末に失効する非常事態宣言をまたも延長するというニュースが報道された。10月末まで1か月間の再延長ということで、これで6回目になる。もっとも、閣議で審議されなければならないので、まだ正式決定ではないものの、反対勢力もいないので、9月29日の閣議で決議されるはずである。

ところで、今回のニュースによると、再度の非常事態宣言の延長が必要という政府の理由が以下である。

“เนื่องจากเป็นกลไกสำคัญที่จะบูรณาการการทำงานของเจ้าหน้าที่ได้ อีกทั้งขณะนี้สถานการณ์การแพร่ระบาดของโควิด-19 ในประเทศเพื่อนบ้านค่อนข้างจะหนัก จึงจำเป็นต้องคุมเข้มตามแนวชายแดน”

(非常事態宣言の延長は、政府全体が組織的に一体となって対応できるメカニズムを維持するためにまだ必要で、現在、コロナの2次波で周辺国で感染が広がっていることもあり、国境周辺の警備をさらに厳重にする上でも必要である)

実は、これは筆者が以前、アゴラに寄稿した「2021年、タイ観光産業のメルトダウンが始まる!」の中で次のように書いた予想と同じであり、結局こういうことになったかと落胆させられた次第である。

“感染者ゼロが長期間続くにもかかわらず、先月、タイ政府はまたもや非常事態宣言の期間を延長し、3月26日の発令からこれで5回目の延長となった。しかも、このところ、インドやバングラデシュで感染者が再び増えつつあり、特にタイと国境を接するミャンマーでは、第2波による感染者が急増していることから、政府は国境封鎖をさらに厳重にしたところである。そんな状況下で、タイ政府が現在の期限である9月末をもって、今度こそ非常事態宣言を解除するとは考えにくい”

ところで、日本には非常事態宣言の法律がないので、なぜこれを早く解除した方がいいのかというと、以下の朝日新聞の解説にあるように、タイでは首相を中心とする危機管理機関に権限が集中し、政府は超法規的な強権を発動することができるからである。

タイの非常事態宣言(朝日新聞)

国の秩序や治安が重大な危機に陥る恐れがある場合に、首相は内閣の承認を得て非常事態を宣言することができる。治安維持のために外出や集会の禁止、報道や出版規制、交通制限、関係者の拘束といった強権を発動できる。軍に任務を与えることが多い。

実際、非常事態宣言によって感染防止が最優先された結果、3月以降、首相をトップとするCCSA(Covid 19 Situation Administration Centre)には強大な権限が与えられ、現地の英字紙によれば、これまで政府観光スポーツ省が提案してきた外国人旅行者の受入れ促進に関するスキームはことごとくCCSAによって却下されてきたという。

“Minister of Tourism and Sports comes forward with another scheme to kick start tourism after past proposals have been rejected. In recent weeks, however, Tourism and Sports Minister, Phiphat Ratchakitprakarn has come forward with new schemes such as the long-stay tourist visa and the special ‘Phuket Model’ approach which he wished to extend to tourist hotspots following the rejection of a number initiatives now by the all-powerful Covid 19 Situation Administration Centre (CCSA) since the crisis began at the end of March this year.”(出典:タイエグザミナードットコム)

このレポーターは、最近やっと厳しい条件付きで承認された特別観光ビザやプーケットモデルについて書いているのだが、その中で「それ以前は、観光スポーツ省が外国人観光客を増やすべく提案してきたプランは、3月末以降強大な権力を持つことになったCCSAに拒否され続けてきた」と記述していることからも、CCSAが持つ強力な権限ががわかる。

実際のところ、コロナ感染爆発の危機であった3月、4月はこれでよかったのである。しかし、今は国内で感染者がほぼ皆無という状況にもかかわらず、それでも非常事態宣言が続くということは、CCSAへの権力集中がこれからも続くということになり、タイ中央銀行が以下で指摘しているように、そのために受ける経済的な犠牲を考えると、今の施政はコロナ感染阻止に偏りすぎているのである。

“If foreign travellers still cannot visit the country, this will impact Thailand’s economic growth more severely next year. The government should strike a balance between tourism measures and outbreak containment”

(タイ中央銀行:外国人観光客が入国できない状況が来年も続けば、タイ経済全体に与える影響はさらに大きくなる。政府は観光産業促進とコロナ感染阻止のバランスを取りながら政策運営するべきである)

これは私の個人的な推測であるが、日銀に相当するタイ中央銀行は独立色が強いので、政府に対してこのように物申すことができる。しかし、何とか外国人観光客を呼び戻そうとしている当のタイ観光スポーツ省やその内部機関であるTAT(タイ観光局)は政府側であり、どうしてもCCSAに従わざるをえず、それで外国人の入国規制緩和もなかなか進んでいないのではないかと思う。

つい最近も、筆者はブログで、「特別観光ビザに落胆する観光旅行業界」と題して、最近やっと承認された特別観光ビザが、当初の狙いであった「比較的安全な国との政府間相互協定による、隔離検疫なしの観光客受け入れ」の部分が削除され、結局は骨抜きの観光ビザになってしまったのは、やはりCCSAの拒否が原因だったのではないかと思っている。

それどころか、この特別観光ビザでタイに入国するには、出発する前に母国で2週間、タイに着いてから2週間の隔離検疫、さらにタイ国内の他の場所も旅行したければもう1週間と、最長5週間もの隔離検疫が必要という条件が付いていて、これではビザの魅力などほとんどない。

そういう意味では、日本の菅新総理は就任早々、日本は感染リスクをとっても外国人を受け入れるしかないと発言し、海外からビジネスマンや留学生を受け入れる姿勢を示しているが、タイより日本政府の方が現実的な対応をしているように思えるのである。

ところで、タイ政府は3月以降、航空便の欠航等で母国に帰れなくなっていた外国人に与えていた、ビザなしでも滞在できるという恩赦を9月26日をもって終了させた。しかし、それでも母国に帰れない人や、安全なタイに留まり帰りたくない外国人がたくさんいる。こういう人たちの多くが今後、不法滞在者となり、外国人の長期滞在自体が社会問題となる可能性が高い。一方で、学生たちによる反政府デモはますます勢いを増している。そこにもってきて、経済復興の足枷となる非常事態宣言の再延長である。

残念ながら、タイの経済不況と社会の混乱はまだまだ続きそうであり、先に書いたロングステイクラブの人達だけでなく、タイへの入国を心待ちにしている人達にとっても事態は悪化するばかりなのである。

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